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<消費増税>町工場悲鳴「転嫁Gメンに通報すれば仕事失う」

2014年3月30日日曜日

 「暗いトンネルを抜けても、その先は崖で道がない」。東京都大田区で小さな金属加工工場を営む男性(67)は、ナットを握りしめながら言った。4月の消費増税を前に、日本のものづくりを支えてきた町工場に元気がない。国は約600人の「転嫁対策調査官(転嫁Gメン)」を配置し、増税分の上乗せ(転嫁)拒否を行う大手元請けに関する通報を受け付け、下請けいじめを防止するとしている。しかし男性は「通報は無理。すれば仕事を失う」と話した。【斎川瞳】

 大田区には全盛期、約1万社の町工場があり、高度経済成長を支えてきたが、今は4000社を下回る。1970年代のオイルショック、80年代の円高不況、91年のバブル崩壊と、荒波をかぶり続けてきたが、男性は97年に消費税が3%から5%に上がった時も、何とかしのいだ。しかし、2008年のリーマン・ショックで売り上げが半減。元請けに買いたたかれ、5年半が過ぎた今も赤字から抜け出せていない。「消費税が上がるのを機に、工場をたたもうとしている仲間は多いよ」とため息をつく。

 増税は目前に迫るが、大半の元請けから取引額について相談や説明はない。従来の価格に増税分を上乗せした請求書を送れば済む話だが「それは建前だ」と言う。

 増税分の転嫁拒否は違法で、大っぴらに拒む企業はない。男性は下請けへの値下げ圧力を強めるはず、と予想する。そうなれば、増税分は下請けがかぶることになる。

 先日、転嫁Gメンから「価格への転嫁を拒否されていませんか」と電話があった。男性は「話すことはありません」とだけ言い、電話を切った。「仮に転嫁を拒否されても、Gメンに通報することはない。ばれたら仕事を打ち切られる。怖くて言えるわけがない」

 この10年、廃業に追い込まれた仲間を何人も見てきた。「機械の前で首をつったやつもいる」。男性は逆境に耐えてきたが「今度こそ限界だ。Gメンが必要な消費税自体に欠陥があるんじゃないの?」と怒りを込めた。

 町工場の相次ぐ廃業で、大手元請けが苦しむ皮肉な現象も起きている。

 大田区で成型会社を営む男性(73)には、今月新規の仕事が立て続けに舞い込んだ。「今すぐ鋳型を送る。今夜のうちに製品を作ってほしい」。大手複写機メーカーから切羽詰まった発注が来る。

 「町工場が次々につぶれ、大手も頼めるところを失って困っている」。多少の無理は聞くが、何件かの注文は断った。「こっちも黙ってはいない。

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