「日本の不動産業界は欧米に比べ、公平性や効率性で100年遅れている。"消費者による消費者のための不動産会社"をつくりたい」(
西山和良・ソニー不動産社長)
ソニーが不動産事業を本格展開し始めた。今年4月に完全子会社のソニー不動産を設立。8月1日から1都3県で営業をスタートし、順次、エリアを拡大していく。
営業開始から約20日で、すでに約350件の問い合わせがあり、成約実績も出始めた。「現在のところ、想定の倍の速度で成長している」(西山社長)と順調な滑り出し。まずは5年で売上高500億円を目標に掲げている。
売り上げ規模からすれば、業界でまだまだ小さな存在だが、ある大手不動産首脳は「非常に面白い取り組みであり、われわれも参考にさせてもらいたいと思っている」と関心を寄せる。
業界関係者らが注目する理由は、ソニー不動産のビジネスモデルが、後述する日本の不動産業界の"ガラパゴス"化に一石を投じる可能性があるためだ。
エージェント制度を導入
ソニー不動産の特徴は大きく二つある。
一つ目は、不動産の売り手もしくは買い手のどちらかに専属の担当者をつけるエージェント(代理人)制度の導入だ。
日本では売り手と買い手の双方を1社が仲介する、いわゆる「両手取引」が一般的だ。それにより仲介する不動産会社は、売り手と買い手の両方から手数料を得ることができる。
だが、両手取引の場合、売り手と買い手のそれぞれの利益最大化において利益相反が起きるリスクがある。
実際、不動産先進国といわれる米国などでは、売り手と買い手に異なる不動産会社がつく「片手取引」が通常であり、両手取引は米国の約半分の州で禁止されている。
消費者利益を考えれば、片手取引を普及すべきだが、日本の不動産業界において、両手取引の問題を批判するのはタブー視されている。かつて2009年に民主党がマニフェストに「両手取引の原則禁止」を盛り込んだこともあったが、結局、実現はされなかった。
二つ目の特徴は、不動産仲介手数料を「掛かった分だけ」にしたことである。不動産会社に支払う仲介手数料は、法定上限である一定率が一般的だ。ソニー不動産の場合は、仲介業務に掛かったコストに応じた金額を設定。不動産仲介手数料が、他社に比べて下がるケースが増えそうだ。
日本の不動産業界は、その独自の商慣習などにより、ガラパゴス化している。
「リーマンショック後、政府系ファンドなどの投資家が日本市場に関心を持ち、市場の安定性や透明性が求められるようになってきている」と米系不動産大手ジョーンズ ラング ラサールの犬間由博アソシエイトダイレクター。今後、取引透明化への"外圧"が強まるかもしれない。
ソニーの不動産業界への参入が呼び水になり、今後、新興勢力が増える可能性もありそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)