『出光佐三の日本人にかえれ』(北尾吉孝著、あさ出版)は、出光興産の創業者である出光佐三さんの生き方、考え方、メッセージ、経営者としての力量などに焦点を当てた好著。「人間尊重」の精神を生涯にわたって貫いた人間像が、カリスマ経営者としても知られる著者の誠実な文体で記されています。
最も印象的だったのは、出光さんが出光興産で成し遂げた教えや経営思想の数々が、「出光の七不思議」と呼ばれているという事実。その内容はどれもが一般的な会社では非常識に感じられるものばかりですが、出光興産では、誰もがそのあり方に疑問を持っていないのだとか。その内容について出光さんが詳しく語った第3章「意志と行動の起点」中の「社員は家族──出光の七不思議」に焦点を当ててみます。
1.馘首(解雇)がない
出光では入社した社員を、「子どもが生まれたという心持ちになって」育てることになっているのだそうです。
子どもは難関にぶつかるとやめたがる。いったんやりかけたことをやめるとは、若木の芽をとめるのと同じで、それでは小さな幹で終わってしまう。やりかけたことは、事のいかんにかかわらず終始一貫やれ、というのが僕の方針だ。(164ページより)
だから、社員をやめさせることはなかったという考え。出光さんはそれを、「日本人にとっての本当の人間愛」だとしています。
2.定年制がない
やめさせないなら、定年制がないのは当然。定年制がなければ社員が老齢化してしまうと考えるのが一般的かもしれませんが、出光さんは「それは外部の資本家の搾取があるからだ」と論じています。
人間は個人個人によって能力が違うのであり、何歳になると定年だなんていうことは、人間侮辱である。人間が一生真剣に働いて、老後が安定しないというバカなことはない。皆が仲良く、働けるまで働くのが人間社会の理想だ。そしてどこでやめるかは年齢などに関係なく、その人の能力のいかんによって決すべきである。それは自分なり、同僚なりの判断、すなわち人間の判断によって自然と決まることであって、規則や組織によって縛られるべきものではないと僕は思っている。(164ページより)
「定年とは、まだ働きたい人をやめさせること」、それは高齢化が進む現代社会を先取りした考え方だったといえるのではないでしょうか。(164ページより)
3.労働組合がない
馘首がなく、定年制がなければ労働組合も不要。そしてこれは、人間を愛情で育てた結果だと出光さんは言います。…
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