承認間近にもかかわらず、富山化学関係者は「無念」とうめく。異例ともいえる厳しい承認条件がつき、一時は「ポスト『タミフル』で年間売上高は数百億~1000億円級になる」と期待されたものが、「めったなことでは使わないクスリ」に成り果てたからだ。
その適応対象は「新型または再興型インフルエンザ感染症」で、「他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る」というただし書きがつく。つまり、「パンデミック」と呼ばれる新型インフルエンザなどの大流行に備えるためのクスリであり、通常の季節性インフルエンザの治療には使わないということだ。当面、医療機関には流通せず、政府にパンデミック対策の備蓄用で販売するのみとなる。
安全面でけちがついた富山化学が承認申請したのは、2011年3月。通常、申請したクスリが審査される期間はおよそ1年だが、アビガンは3年を要している。
当局が慎重になったのは、ヒトで行う臨床試験前に実施した動物による安全性試験で胎児に奇形が生じる可能性が認められたためだ。
標準的な治療薬となっているタミフルでも、かつて副作用とみられる患者の異常行動が社会問題化した。そんな中、1960年代に投与した妊婦に奇形児が生まれて大規模な薬害事件となったサリドマイドのような悪夢が1例でも発生すれば、当局は責任を問われかねない。
抗インフルエンザウイルス作用のある新しい化合物の発見として発表された10余年前は、中堅規模の富山化学にとって勝負を懸けた"期待の新薬"だった。結局、夢は破れたが、それでもアビガンは生き残った。通常であれば「けちのついたクスリは開発中止になる運命」(大手製薬開発担当者)にあるが、多くの条件付きとはいえ承認されたのは、既存薬とは作用メカニズムが大きく異なっていたからである。
タミフルなど既存薬は、ウイルスを細胞内に閉じ込めて増殖を防ぐ。対してアビガンは、感染した細胞内で、ウイルスの遺伝子複製を阻害して増殖を防ぐ。
作用メカニズムが異なれば、既存薬に耐性を持ったウイルスに対しても十分な効果を発揮すると考えられている。…
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